ブログ京橋店
2018.8.1
日本料理のさしすせそ「せ(しょうゆ)」編
海開き、山開きの時期を迎え、いかがお過ごしでしょうか。
日本料理の基本調味料さしすせそということで今回は「せ」の醤油についてお話をしてみます。
美味しさの秘密
日本の代表的な調味料、「しょうゆ」。原料である大豆、小麦に含まれる成分が、醸造期間中にさまざまな成分に生まれ変わり、それぞれが作用しあって美しい色、ふくよかな香り、奥行きのあるうま味が誕生します。
しょうゆの独特のおいしさは、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味という5つの基本味のバランスによってつくられています。5つの味が、オーケストラのように見事なハーモニーを奏でて醸し出す「おいしさの賜物」です。
歴史、伝来
しょうゆのルーツは、古代中国に伝わる「醤」(ジャン)といわれています。
醤はもともと原料を塩漬けにして保存したもの。
しょうゆは米、麦、大豆など穀物を原料とした「穀醤」が原型と考えられています。
日本に「醤」として伝わった時期は明らかではありませんが、大宝律令(701年制定)によると、宮内省の儀式の食事を司っていた大膳職で大豆を原料とする「醤」がつくられていたとされています。
その後鎌倉時代に、信州の禅僧が中国から持ち帰った味噌から味噌作りが始まり、製法を教えているうちに味噌からしみ出す汁がおいしことに気づき、それが現在の「溜まりしょうゆ」になったそうです。
しょうゆを「むらさき」というのは?
その理由には諸説があります。
昔は赤褐色のことを紫と言い、皿にたらしたしょうゆの色が赤褐色だったため。
丹波の黒豆を使うとしょうゆが紫色になったから。
また江戸時代の武士たちは、高貴の象徴とされてきた紫への思い入れが強く、当時高価で貴重だったしょうゆを「むらさき」と呼んで珍重したそうです。
かぐわしいその香り
しょうゆの香りは麹菌、酵母、乳酸菌などの微生物によって生まれます。
その香り成分は現在発見されているだけでも300種類以上。
肉や魚介類の生臭さ消す働きにはアミノ酸の一種、メチオニンが変化したメチオノールによるものです。
また加熱すると「メラノイジン」という色素物質ができ、香ばしさを生み出します。
しょうゆの調理効果
消臭効果→しょうゆに含まれる香りや色の成分が材料の臭みの原因物質を中和させて臭みを消します。調理前にしょうゆを振りかける「しょうゆ洗い」はこの効果を利用するものです。
加熱効果→加熱すると、しょうゆに含まれるアミノ酸と糖分が反応して「メラノイジン」という色素物質ができ、香ばしさと照りが生まれます。
対比効果&抑制効果→しょうゆには甘味を引き立たせる「対比効果」があります。甘い煮豆の仕上げに少量のしょうゆを加えるのはこれを利用したものです。また有機酸類には塩味を和らげる「抑制効果」も。塩鮭にしょうゆをたらすと塩味が」まろやかになります。
相乗効果→しょうゆのグルタミン酸と、かつお・煮干しだしのイノシン酸、乾しいたけだしのグアニル酸が合わさるとうま味が深まります。
静菌効果→大腸菌などの増殖を抑える効果もあるため、しょうゆ漬けや佃煮などに利用されます。
しょうゆの種類
しょうゆの種類はJAS(日本農林規格)によって「濃口しょうゆ」「淡口しょうゆ」「溜まりしょうゆ」「再仕込みしょうゆ」「白しょうゆ」の5つに分類されます。
消費量の8割以上を占めるのが「濃口」ですが、関西地方の「淡口」、中部地方の「溜まり」、山口県を中心に山陰から九州地方の「再仕込み」、愛知県で生まれた「白」と、個性の異なるしょうゆがつくられています。
いかがでしたでしょうか?我々料理人、家庭でもしょうゆは万能調味料ということがうかがえます。
これからまだまだ暑い日が続きますが、どうぞご自愛くださいませ。
ご清覧誠にありがとうございました。
香水亭京橋店料理長 越智健介