ブログ六本木店
2017.9.1
重陽の頃

夏休みも終わり、もう秋本番!!
と行きたい所ですが、まだまだ鈴虫もうだる暑さが続きますね。
夏が終わると、私はある家族のことを思い出します。
以前、私はとある料亭で料理長を務めさせて頂いて居りました。
この家族は暑い盛りを避け料亭の近くにあるお寺に九月になると、おばあ様と孫を引き連れ
お墓参りをしてから当時、私の居た料亭にお昼ご飯を食べに来るのが習わしでした。
そして、料理長に就任して一年目、この家族はあまり知らない方々だったのですが偶然にも
私の妻の親戚で私がこの料亭にいることを、妻から聞かされたという事でとても贔屓にして
頂きました。特に、おばあさまが私共の天ぷらが美味しいと毎回毎回喜んで召し上がって
いただき、とても励みになったのを覚えています。
その当時、私も若くまだまだ未熟者、料理を作るという事に執着し周りが見えていない事も
多々あったと思います。技術本位で、お客様の事や取引業者の事を見下していた事もあったと
思います。要するに、自分本位に美味しいものを作ろうとしていたわけです。
ある時、なかなか思ったものが作れずにすごく悩んだ時期がありました。
なかなか料亭の舌の肥えたお客様から美味しいと言ってもらえない。
もしかしたら料理人に向いていないんじゃないかと考えた時期もありました。
高い壁にぶつかり、ジリジリと焦燥感ばかり募る時期でした。
そんなある日、訃報がもたらされました。天ぷらのおばあ様が亡くなったと、、、
以前から、体調がすぐれず入院していた事は知っていたのですが、、、
後に、ご遺族が一周忌の折ご来店され、こんな事を聞かされました。
亡くなる前に、「あそこでまた美味しい天ぷらを食べるんだ」と言っていたと、
おばあ様が頑張って生きたのはあなたの御蔭だといわれました。
もう誰もいない、影膳の天ぷらを前に涙が溢れました。
その日から、私の中で変化が起きました。
お客様、取引業者様、皆が喜べるようにしようと考えました。お決まりの料理ではなくお客様に
合わせた物を作るという事を、念頭に置いて作る事を考えて行動に移しました。食材も、こちらの我がままな、仕入れをするのではなくその時、業者が進めるものも仕入れるようにしました。
そうしますと、食材が何となくですが良いものが揃うようになりました。
そして、お客様からも美味しかったと言う言葉が増えました。
常連様も増え、食材も良い物が増えていきました。必然と売り上げも伸びていきました。
この時、私は料理人というものは、
「人に生きる力を与えることもできる。人生を変えることも出来る。」
という事を痛感しました。
私は、こんなに素晴らしい職業についているんだ、お客様に、そして食材、支えてくれる全ての
人たちに喜んでもらいたいんだという、「気持ち」が原動力となり初めて良いものが作れる。
そんな気持ちで日々、私は料理に取り組んでいます。
天狗になった時は、「天ぷら」を思い出す様にしています。
と、昔話はこれくらいにして、秋になりますと美味しいものがたっぷり出てきますね。
中でも私が一番好きなのは何と言っても「秋刀魚」これ、なくして秋は語れません。
「松茸」!!と行きたいのですが、お酒のあてに安小遣いの私には高すぎる、、
とカミさんに怒られるので言いませんが、、、
そう、秋刀魚は、煮ようが、焼こうが、刺身でも、天下無敵です。
私は、自分で食べるなら「塩焼き」ですね。
ジュウジュウ言っているところを、口に放り込みビールで流す。たまりませんね。
召し上がっていただくなら、刺身はいかがでしょうか。
小骨を抜いて冷たい酢の中をさっとくぐらせます。
そうしますと、生臭みも取れ「生より新鮮」になります。
生姜醤油でお召し上がり頂きたいものです。
焼き物ですと、かの池波正太郎先生の大好物「秋刀魚の腸焼き」がおすすめです。
骨もきれいに抜いていますので心置きなく楽しめます。
秋刀魚の腸のうま味も、味わえますよ。
秋本番に備えて体調にお気を付けください。
美味しい食材が山ほど待っていますよ。
当店でも心引き締めて料理させて頂きます。
一同お待ちしております。