ブログ新橋店
2017.8.19
焼き物について
暑さも厳しさを増してまいりましたが皆様どのようにお過ごしですか。
今回は、焼き物についてお話したいと思います。
食材を焼いて食べるということは、非常に原始的な時代から行なわれてきたことは想像にかたくないとおもいます。
人間の文化の特徴の一つは、火を使うということであると言われています。
最初は生食以外には食物を摂取することができなかったと思われますが、山火事などのような自然現象から、動物や植物が焼けると、どのように変化するかを学んだのではないでしょうか。
その様な意味で、調理の技術的な面から焼くという仕事は、煮る鍋、蒸す鍋、揚げる鍋などの調理器具が不要であるという点で、人間が最初に食物を加工するには、もっとも都合の良い方法であったと思われます。
このような単純な物理的な操作で、魚や鳥や野草や果実などがおいしくなると覚えた時点から、さまざまな焼き方が工夫されてきました。
さらに目的を達するのに都合の良い設備を工夫し、道具を考案するようになり、さらに調味料の発達とともに、いろいろな焼き物の技術が生まれて来ることことになりました。
現在、私達が調理する焼き物の技術は、ほとんど原始時代に工夫されたものの延長線上にあります。
道具や調理器具の発達は日進月歩で便利なものが出来てきましたが、その原点においては、現在でも炭火焼きやバーベキュー手法などは、全く進歩していないといっても過言ではないと思います。
現在では焼き物調理用の機械がいろいろ開発されて非常に便利になり、近代的になりました。
電子レンジやガスオーブンなど、多くの便利なものができましたが、一方では昔ながらの備長の炭で、直火で焼くことを看板にして商売をしているところもあります。
これは、原始的な方法で焼いたものが素材の旨味を活かし、味が良いということになるかもしれません。
しかし、焼き物を上手に美味しく焼くということは、一つの技術であって、素材を良く知り、加減をを直感的に感じる鋭い勘がなければできないことです。
いろいろな魚介や鳥などの素材を上手に焼けるようになるには、職人として、焼き方の相当な歳月をかけて経験を積まなければできないことです。
このようにして日本料理では、たくさんの焼き物の料理が完成しました。
日本料理の焼き物の原点は、塩焼きと言ってもよく、素材の持ち味を賞味します。
鯛の塩焼き、鮎の塩焼きなどは、日本料理を代表する料理です。
さらに室町時代に入って醤油が使われるようになり、茶事が催されるようになると、複雑な味の焼き物が作られるようになってきました。
調味料として焼きダレが塩に変わり、照り焼き、幽庵焼き、若狭焼き、利休焼きなどいろいろな焼き方が工夫され、さらに他の食材と組み合わせて雲丹焼き、木の芽焼き、味噌焼き(田楽)など、多くの料理が生まれることになりました。
さらに調理されたものを貝殻や柚釜、茄子釜などに詰めて焼いた、新しい調理方も工夫されました。
このようにして、焼き物は魚介を中心にした素材自体を食べて賞味するものから、全く別の組み合わせによる素材にも及び、伝法焼き、さんが(貝焼き)などは、そのよい例です。
また、玉子焼きも同じ焼き物の技術の一つですし、さらには、カステラ、パウンドケーキなどの洋菓子の類も、全て焼き物の技術を応用して作られているものです。
また、焼きりんごのように果実を焼くことも行なわれます。
このようにしてみると、焼き物の技術は原始的なものでありますが、複雑な料理へと発展していく可能性を秘めたものです。
焼き魚などの場合には、こげ目自体が味に影響を与えていることが知られています。
これは、魚の表面にあるピペリジンや、魚の身の中に含まれているトリメチルアミンオキサイドという成分が、熱を加えられると揮発してよい香りを出すことによるものです。
タレを掛けて焼くと、さらにタレのこげる香りが添加され、美味しくなります。
焼く技術は、単に魚介や肉のようなタンパク質の素材だけでなく、デンプン質のいもや海藻ののり、果菜類のなす、ししとう、その他、加工食品のかまぼこやお好み焼き、たこ焼き、ぎょうざなど、いろいろな仕事があります。
全てが繊細な神経を必要とし、焼き加減を覚えるには、さまざまな技術を経験して身につけています。
まだまだ、暑い日が続きますが、夏の食材をご用意して皆様のお越しをお待ちしております。
瓢喜 香水亭 新橋店 料理長